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第52話:大家の保険はどれが必要か。火災・賠償・地震

先日、こんな意見を聞きました。「地震保険はいらない。そのかわり、施設賠償責任という補償だけは必ず付けなさい」。

思わずうなずきました。でも考えてみると、私は6棟のうち5棟に地震保険を付けています。うなずいた自分と、保険料を払い続けている自分は、矛盾していないだろうか。

ちょうど今年は、保険のことで代理店とやりとりする機会が続きました。いい機会なので、6棟の保険をぜんぶ点検してみました。今日はその報告です。

先に、大家の保険の作りをひとことで説明します。土台は火災保険です。そこに、施設賠償責任や地震保険といった補償を付けるか付けないかを選んでいく。保険選びとは、つまりこの「何を付けるか」の判断です。

土台の火災保険。「どこまで含めるか」が大事

まず土台の火災保険です。これが必要なことに異論のある大家さんはいないと思いますが、点検して分かったのは「どこまで含めるか」が大事だということでした。

第51話に書いたとおり、去年の大晦日、所有するアパートで汚水が逆流する事故がありました。復旧にかかった約18万円は、火災保険から全額出ています。

あらためて考えると、これは不思議なことです。火事は起きていないのに、火災保険が払ってくれたのですから。理由は、私の契約が「水濡れ」の補償まで含むタイプだったことです。火災保険には、火事・落雷・爆発だけを対象にした安いタイプと、水濡れや破損まで含む幅広いタイプがあります。もし安いほうを選んでいたら、18万円は自腹でした。

大家を30年やってきて、火事は一度もありません。名前は火災保険ですが、実際に世話になったのは水の事故でした。

付けるかどうか①施設賠償責任。桁がひとつ違う補償

次に、冒頭の意見で「必ず付けなさい」と言われていた施設賠償責任です。

これは、建物が原因でよその人に損害を与えたときの補償です。外壁が剥がれて通行人にケガをさせてしまった。階段の手すりが壊れて入居者がケガをした。そういうときに、相手への賠償金を払ってくれます。

自分の建物の修理なら、かかる金額はだいたい見当がつきます。でも人にケガをさせたときの賠償は、いくらになるか分かりません。大家業で本当に怖いのはこちらです。

私は1回の事故につき1億円まで、という契約にしています。点検のついでに、これを3億円に上げたらいくら高くなるのか、代理店に見積もりを頼んでみました。答えは「5年間で約3,000円」。1年あたり600円です。缶コーヒー5本分で、備えが2億円ぶん厚くなる。これは付けない理由がありません。

付けるかどうか②地震保険。「出ない」のか

もうひとつの選択が地震保険です。「掛けても出ない」とよく言われますが、調べてみると少し違いました。

支払われた金額は公表されています。能登半島地震で約1,080億円。熊本地震で約3,914億円。東日本大震災では約1兆2,897億円。ちゃんと出ています。

ただし、1件あたりは小さいのです。支払いの大半は「一部損」という一番軽い認定で、受け取れるのは契約金額の5%。1,000万円の契約なら50万円です。基礎や外壁のひび数本でも認定されるかわりに、金額は控えめ。しかも地震保険はもともと火災保険の半分までしか掛けられない決まりで、建て直しの費用には届きません。

一部損ばかりになるのには、理由があります。建築の法律は、大きな地震のたびに改正されてきました。1981年に耐震基準が大きく変わり、2000年にも木造の基準が強化されています。新しい基準の建物ほど壊れにくいことは熊本地震の調査でもはっきり出ていて、大きく壊れたのは古い基準の建物に集中していました。建物が壊れにくくなった分、認定は軽い一部損が中心になり、受け取る金額も小さくなった。地震保険が物足りなく見える背景には、建物が強くなったという良い変化があるわけです。

つまり「出ない」ではなく「出るけれど小さい」が正解でした。なお、地震保険は国と保険会社が共同で運営していて、保険料に会社の利益を乗せない決まりです。物足りないのは制度の設計のせいで、損な保険というわけではありません。

地震のリスクには保険ではなく、貯金と物件の分散で備える。

まとめ

6棟を点検した結論です。

保険の正解は人それぞれです。この記事は私の場合の結論なので、ご自分の契約で迷ったら、代理店や専門家に相談してみてください。